東京物語

三宅香帆のブログです。日々の感想やレビューなど。感想は基本的にネタバレ含むのでご注意を。

AKB48の新曲( #根も葉もRumor )が好きすぎてつらい

だってあの頃はまだポニーテールにシュシュ 声なんか掛ける気になれずに素通りしてた

コロナの関係で1年半くらいCDを出せなかったAKBがひっさしぶりに新曲を出すと聞き、どんな曲が来るかなとそんなに期待せず初披露を音楽番組で待った。そのとき流れてきたのがこの歌詞だった。

この歌詞が流れたとき、Twitterにいたオタクたち(オタクはすぐ音楽番組を実況する)が一斉に叫んだ言葉をあなたはご存知だろうか。

「康、生きてる!!!!!!!」

私の観測範囲でしかないが、本当にみんなそう叫んでいた。ちなみに私も叫んだ。あまりに失礼な発言だと思われそうだがしかし、そう叫ぶしかなかった。

 

AKB48グループの曲は大量にあるが、その作詞はどれも秋元康名義である。たまにファンじゃない人から「秋元康って本当に歌詞書いてるのかな」と言われることがあるが、48や坂道グループの歌詞をずーっと見続けてる身としては、「少なくとも表題曲は絶対書いてるんじゃないかな」と答えている。なぜそう思うのか。歌詞への力の入れようの差が、如実に分かるからである。

ぶっちゃけたくさんのプロが書いているならこんなにクオリティに差は出ない。と思う。でも、48グループや坂道グループの曲は、たとえ表題曲であっても「うわ、今回の歌詞は秋元康節が出てる、気合入ってるなあ」と思うものもあれば「手ぐせでさらっと書いたやろ!!」とファンが叫ぶ歌詞もある。

そういう意味で、AKB48の新曲『根も葉もRumor』は明らかに力が入っていた。じゃないと、「だってあの頃はまだポニーテールにシュシュ」なんて、ともすると昔のAKBを揶揄するやうな、「もう昔の前髪ぱっつんでチェックのスカート履いてたAKBじゃないんだよ」と微笑むような歌詞を書くわけないじゃないか。こんな歌詞、ほかのだれにも書けないよ。

 

根も葉もRumorの歌詞は、二番が本当に本当に私は好きだ。

最初、初披露のときは一番しか聴けなかった。音楽番組だし。一番は、ちょっと会ってないうちにきみがきれいになって昔と違う女性になってた、と驚く内容。なるほどなー、と納得した。「久しぶりにAKBを見た人たちが、えっ今こんなかんじなんだ!って驚くことに重ねた歌詞なのかな?」と思った。

たしかにいまのセンターの岡田奈々ちゃんの髪色はピンクだし、横にいる本田仁美ちゃんは金髪だし横山結衣ちゃんは青髪だし、みんなむかしイメージするAKBとはまた違った雰囲気の子たちだ。あとダンス上手い。めっちゃ上手い。むかしとは違う。

だからそういう面を押し出したくて、プロデュースの一環としてこの歌詞を書いたのか、と。康、AKBに興味持ってるやん! 生きてる! プロデュースする気あるじゃん! とオタクたちが騒いだのは、歌詞からそういう意図を読み取ったからだ。

 

しかし新曲がとうとう発売され、二番をはじめて聴いた時、グッとくるどころの騒ぎではなかった。プロデュースとかそういう側面を超えた、これはもうこの世のアイドル肯定じゃん、くらいに思うようになった。

二番でとうとう「Rumor」の正体が明かされる。

 

「僕が知ってる君は前髪ぱっつんでスカート翻しながらいつも走っていた、髪の色も変わっていくつ恋をしたの」

「Pick up a rumor それもどれもこれも生々しいキスマークが君の人生だ」

 

わかりますか、Rumorの意味が。一番では「彼女にまつわる噂」くらいにしか解釈できなかったRumorが、ここに来て初めてその意味を明らかにする。

Rumorというのはつまり、いままでのたくさんのスキャンダルのことだと思うんだよ私は。

 

もはやアイドル史というか48グループや坂道グループの歴史において、恋愛スキャンダルの話は避けて通れない。ばかみたいだと私は思うがいまだに「アイドルが恋愛するのはルール違反」という共通認識がある。オタクはアイドルが恋愛したら嘆き悲しみ、その末にアイドルたちはスキャンダルゆえ「卒業」してゆく。恋愛したら卒業。という名の解雇。そんなアイドルのイメージは令和になってもずっとある。

それでも清廉潔白な人なんていない。48グループでは指原さんや峯岸さんのようにスキャンダルすら糧にするアイドルもたくさんいた。いま現役で頑張ってるメンバーの中にも「噂」レベルでいろいろ言われた子もいる。

でも、そんな「噂」も、きみの人生だ、って根も葉もRumorは言うのだ。

ファンはただの噂だってわかってても気になる。好きだから、恋してるから気になる。君がここまでいくつか恋をしたなんて噂を聞いたら、それがたとえ元彼の話だとしても、たとえ真偽のわからない噂だとしても、嘘だと言ってよって嘆く。

でも、そんな噂も振りまきながら、それでも君は踊る。夜明けまで。噂すら自分の糧にして、君はもっともっときれいになる。

それがアイドルなのだ。

根も葉もRumorの歌詞はたしかにそう言う。いや、恋愛ソングのふりした新AKBプロデュースソングのふりしたアイドル肯定ソングやん……。

 

生々しいキスマークがきみの人生だ、という歌詞だけ見たら「キモいな!!」と叫びたくなる。しかしこれが様々なアイドルを卒業に追いやったスキャンダルのことかと思うと、生々しい噂すらきみの人生だよ、ってたしかに私は言いたくなる。

よく読むと気持ち悪い、でもその気持ち悪さが癖になる、くらいがちょうどいい。ほんと、くせになる。根も葉もRumor、好きすぎる、と震えつつ最近ずっと聴いている。

 

もう、恋愛くらいで職を失うなんてたまったもんじゃないよな!? と私は彼女たちをみてていつも思うのだが。それでも、それすら魅力の一つにしてほしい、そういう社会がきたらいいのにな、と願ってしまう。女の子は清楚でいてほしいなんて誰かの欲望に負けないで、って。

 

根も葉もRumor、フルサイズのダンス動画が出てたので、よければぜひ聴いてみてね。

https://m.youtube.com/watch?v=gxzc1XfhVek

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