東京物語

三宅香帆のブログです。日々の感想やレビューなど。感想は基本的にネタバレ含むのでご注意を。

宝塚というときめきを成立させる濃厚さー『男役』『娘役』『銀橋』(中山可穂)

中山可穂の宝塚シリーズ全三冊。とっても好きなシリーズになった。 一冊目は男役、二冊目は娘役、三冊目は専科(宝塚の中でのベテラン勢枠みたいな組)について主に描いているシリーズ。基本的にそれぞれエピソードは独立しているし、テイストも異なるので、一…

文体がいいー『パリの砂漠、東京の蜃気楼』(金原ひとみ)

マイブーム金原ひとみその2。筆者のパリと東京の生活をそれぞれ綴ったエッセイ。金原ひとみは文体が好きなので何を読んでも面白いです。お得。 一番胸がギュッとするのが、日本の女性蔑視に関する発言。こんなこというと嫌な気持ちになる人がいるかもしれな…

冷戦からコロナ禍に至るまでのアメリカの対中国スタンスがわかりやすいー『米中対立』(佐橋亮)

アフガニスタンの件で米中関係に興味持って読んだ本。 アメリカが支援した結果今の中国ができたという作者の主張のもと、米中の歴史を紐解く一冊。米中関係といいつつ、ほとんどアメリカ側の説明に終始していたので、中国側のの思惑はそんなに説明されてない…

ただの現代切り取りストーリーで終わらんとこが好き『アンソーシャルディスタンス』(金原ひとみ)

マイブーム金原ひとみ。 さまざまな依存症にハマる女性たちを描いた短編集。いやーおもしろかったあ。金原ひとみの最近の作品大好き。 題材だけみると、整形やアルコールやコロナや、ドンピシャで今っぽいんだけど。それでも小説がそんなにありふれた感じで…

想像よりスケールの大きいシリーズSF―『三体Ⅲ 死神永生』

お盆にやっと三体Ⅲを!!!! 読み終わったのです!!!! 三体シリーズ、一部から読んでいたのだけど本当に三部で終わるとは思ってなかった。絶対七部くらいいくと思っていた。まあニ部以降は上下巻になっているので実質五巻くらいの分量はあるんだけど。 …

日本の先を行くのはイギリスなのかー『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(ブレイディみかこ)

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー(新潮文庫) 作者:ブレイディみかこ 新潮社 Amazon 今更読んだのですが面白かった。内容かなりリベラル。ベストセラーなのでタイトルは知っていたのだが、読んでみるとこれが売れる世の中なんだ今……すご……と思っ…

人生の第二ステージー『オーストリア滞在記』(中谷美紀)

オーストリア滞在記 (幻冬舎文庫) 作者:中谷 美紀 幻冬舎 Amazon 女優中谷美紀さんのオーストリア滞在記。とてもよかった。ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団奏者の夫と結婚し、そのお子さんとも時間を過ごすようになり、オーストリアのザルツブルグでコロ…

イギリスという課題ー『ブロークン・ブリテンに聞け Listen to Broken Britain』(ブレイディみかこ)

主に2018〜2020年のイギリスの社会問題について、イギリス在住の著者の視点から語られてるエッセイ。『ぼくはイエロー〜』が面白かったので読んだ。これもよかった、ブレイディみかこさんの文章追いたくなるのわかる。単なるイギリス政治レポートじゃなくて…

新しい手触りの思春期小説ー『ブラザーズ・ブラジャー』(佐原ひかり)

www.amazon.co.jp 素敵な小説だったー。 氷室冴子文学賞受賞作ということで気になって読んだのだけど。書きぶりがとても今っぽくて、なんかこう、みずみずしかった。ほんと、果実的な。果実小説。(?) 高校生のちぐさは、親の再婚によって家族になった弟がブ…

『心は孤独な狩人』を読んでみつめる今年のこと

アメリカの黒人文学といえば、英文学のゼミで読んで「む、難しい」とおののいた記憶ばかりが残る。 たしか題材はフォークナーの短編だった。とにかく英語が難しかった。予習の段階で、単語を調べつつ日本語訳を読みつつでようよう読んだけれど、結局どういう…

忘れることは… 歌集『ビギナーズラック』によせて

北白川を南から北へ、音楽を聴きながら琵琶湖疏水のそばを歩いていくと、ニ〇分もすれば北大路通へ出る。北大路通と東大路通の交差点にはミスタードーナツがあって、僕にはそこでカフェオレを飲みながら本を読む習慣があった。試験前の勉強もそこでする程度…

リアルタイムに書けない

恩田陸の『光の帝国』という連作短編小説集の中に、「大きな引き出し」という短編がある。 特殊な能力を持った一家の話で、すごく好きな短編なのだけど、その中に「しまう」という能力が出てくる。 彼らは、いろんな芸術や文化を自分の中に「しまう」ことが…

『ワンダーウォール』の渡辺あやさんのエッセイが素晴らしすぎて思いのたけを綴ったら長文になってしまった

ある日、三条で人と会った帰り道、丸善にお目当ての本を買いに寄ったら、まったくお目当てではなかったはずの『ワンダーウォール』のシナリオ写真集を買ってしまった。 seikosha.stores.jp とくに買う気はなかったのになぜ買ってしまったかって、私が崇める…

「読むって、簡単なことじゃないんだよ」

物理の研究者は頑張ったらノーベル物理賞をとれるけれど、文学の研究者は頑張ってもノーベル文学賞をとることはできない。 と、いうのは笑えるんだか笑えないんだかよく分からないジョークである。まぁ、ジョークっつーか真実なのだけど。 大学院で文学研究…