東京物語

三宅香帆のブログです。日々の感想やレビューなど。感想は基本的にネタバレ含むのでご注意を。

日本の先を行くのはイギリスなのかー『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(ブレイディみかこ)

 

 

今更読んだのですが面白かった。内容かなりリベラル。ベストセラーなのでタイトルは知っていたのだが、読んでみるとこれが売れる世の中なんだ今……すご……と思ってしまった。本当に時代がリベラルに寄ってるんだなあ。

内容はイギリス在住の作者が、息子さんの中学生活を描いたエッセイ。タイトルも息子さんの言葉。

とにかく息子さんの言語センスが良い。

「僕は、人間は人をいじめるのが好きなんじゃないと思う。……罰するのが好きなんだ」

これが息子さんの発言。本当にね。日々のTwitterみてたら頷かざるを得ない。

 

どのエピソードもいいけど、「昔は勉強ができない子はスポーツや音楽頑張る道があったけど、今は親にお金がないと何かに秀でるのは難しいのだ」ってエピソードが印象に残った。

全然違う話だけど、個人的に最近の女子アイドルをみてると、家庭環境がめちゃくちゃよさそうな子が多いなと思う。お金持ちのお家の子も多いし。私はなんかそれにちょっと切なさを覚えて。(もちろん表に出てる情報なんて一部だから、本当のところはわからないんだけど、でももし「そう見せなきゃいけない」のだとしたらそれもそれでせつない)。芸能界すら、というとアレだけど、才能一本で歩いていけそうな芸能界も、お家が裕福でないと入れないのだろうか、と。

お金がないと子供は何の才能も発揮できないなんて、しんどいけど、どんどんそういう世の中になってる気はする。

 

読んでいると、イギリスの格差社会や緊縮財政は現状日本より明らかにきつい状況ではある(ように見えた)。しかし日本も同じような道を辿りつつあり、そのなかで格差をいかに広げずになんとかのらくらやってくか……が今の時代の課題なのだなあ、と最近しみじみ感じる。

とにかく広がってゆく格差をいかに緩めるか、みたいな。

あとイギリスではリベラルが完全に「体制」側になってて、むしろ若者がそこに反抗したがる、みたいな図式になってるけれど。日本もいずれそうなってくのかな。まあいまだに日本は保守が体制側だからそんな心配いらんのかもだが。

 

あとブレイディみかこさんの書いてることを読んでいて思い出したのが、このカズオイシグロのインタビュー。

言ってることはほとんど同じなんだよね。「上の階層ほどリベラルで多様性がある」けどそれは結局属性は違えど思想は同じで。それは多様性というより、ただの上流階級の集まりでは、と。

 

toyokeizai.net

ブレグジットにしても、トランプ主義の台頭にしても、中には半分ジョークを交えながら、「この世には本当にバカがいるもんだ」と怒る人もいます。しかし、私たちはその先にあるものを考えないといけません。そこで起こっている重要なことに気がつかないといけないのです。

俗に言うリベラルアーツ系、あるいはインテリ系の人々は、実はとても狭い世界の中で暮らしています。東京からパリ、ロサンゼルスなどを飛び回ってあたかも国際的に暮らしていると思いがちですが、実はどこへ行っても自分と似たような人たちとしか会っていないのです。

私は最近妻とよく、地域を超える「横の旅行」ではなく、同じ通りに住んでいる人がどういう人かをもっと深く知る「縦の旅行」が私たちには必要なのではないか、と話しています。自分の近くに住んでいる人でさえ、私とはまったく違う世界に住んでいることがあり、そういう人たちのことこそ知るべきなのです。