東京物語

三宅香帆のブログです。日々の感想やレビューなど。感想は基本的にネタバレ含むのでご注意を。

想像よりスケールの大きいシリーズSF―『三体Ⅲ 死神永生』

 

 

お盆にやっと三体Ⅲを!!!! 読み終わったのです!!!! 

三体シリーズ、一部から読んでいたのだけど本当に三部で終わるとは思ってなかった。絶対七部くらいいくと思っていた。まあニ部以降は上下巻になっているので実質五巻くらいの分量はあるんだけど。

 

私は一部より二部、二部より三部のが面白かった。三部はSFの大風呂敷らしく、時間軸やスケールがどんどんでかくなる。文化大革命やってた頃が遠く感じる、作者がここまで想定してたのか!と驚く。

もはや三部の何を書いても、一、二部のネタバレになるのでは……と恐れながら感想書くけれど。二部が、性悪説準拠というか万人(宇宙)の万人(宇宙)による闘争というか国家は戦争をやめない前提というか、「みんなお互い疑心暗鬼なんだよ」モードの話だったのに対し。三部はもっと「愛や倫理でなんとかしようぜ!」モードに入っているように思え、若干少年ジャンプみがあると感じた。というか主人公となる程心のキャラだろうか。宇宙倫理に対抗する人間倫理。弱いけど、失敗してもめげない。

でも作者の思想は結局、性悪説にあるんじゃないのかな、と読んでいて感じた。キャラも、程心よりも羅輯やトマスのほうがかっこよく魅力的に見えた。(ちょっとパトレイバー後藤隊長ぽい。そんなことないですか。私の趣味でしょうか)。人と人とは戦いをやめない。だから愚かで負け続ける。それでもやるべきことはある、みたいな。

私はSF作品に詳しくないのだが、たまに読んでみると、作者がこの世界をどのように捉えていて、本当はどうあるべきだと思っているか、が世界観にずがんと出ているのが面白いなと思う。最近は中国SFがアツい、という話があるけれど、『三体』にしても他の作品にしても、その背景には大量の他国のサブカルチャー群と中国の社会状況があるように見える。社会状況というのはつまり、自分の置かれている環境が構造的にどうとらえられるかを考える必要があった感じがする、というか。そしてその上に、大量の他国のサブカルチャーを摂取した結果としての、SF文学。

世界観からつくるタイプのSFは、構造を捉えることができる人じゃないと書けない、と私は勝手に思っていて。(逆に純文学なんかは自分の気持ちだけで押し通せると思う)。中国の状況は、自分が置かれている状況を構造的に考えざるをえない場所だったのではないか、とSF小説たちを読むとしみじみ思うのである。

日本の場合は、コロナ前はそんなこと考えもしなかった感があるよ……。

 

『三体』シリーズ、こういうシリーズものの小説を久しぶりに読んだので、それも含めて幸福な読書体験だったな。

ハリーポッターシリーズをリアルタイムで読んでた時のこと思い出した。前の巻のラスト忘れてあわてて読み返す感じとか、みんながわいわい言ってるのとか。

 

 

netflixで実写化される話、新しい監督が決まったみたいで、企画がおじゃんにならないことに驚いたけどよかった……のかな……。監督毒殺事件、ちょっとびっくりしてしまったのだけど!!

deadline.com

 

三体シリーズの一巻は拙著でも扱わせてもらったので、よろしければぜひ(最後に宣伝)。

 

 

今年の夏休みは、なぜか仕事より本読みたいドラマみたい映画みたいモードに入ってしまい、原稿を放り出して積ん読状態になっていた本を読んでしまった。『火の鳥』、『三体』、『ダウントンアビー』、『ハンターハンター』が大きいところかな。楽しかったので悔いはない。原稿はやばいが。