東京物語

三宅香帆のブログです。日々の感想やレビューなど。感想は基本的にネタバレ含むのでご注意を。

読む女性の自由ー『めぐりあう時間たち』

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めぐりあう時間たち』。最近ずっとウルフの『波』をちびちび読んでいるので私の中でタイムリー。

週末にみた『スカイライト』があまりに好みだったので、同じ脚本家しばり。でも脚本家同じといえどこっちは原作があったから、ちょっと狙いとは外れたかも。良い映画だったから結果良かったが。

キャスト豪華。3人の女優対決ぽさもある。

ウルフの『ダロウェイ夫人』をキーにして、時代の異なる3人の女性(主婦・編集者・ウルフ自身)のある一日を描く物語。

 

自分を抑圧し、病んだ女性たちが、ある種「それしかない」方法で自分を救おうとする物語。

一冊の書物を通じて、身動きのとれない女性たちが精神的な解放を求めて繋がる感じが、私は好きだった。ほんと、内容も、ウルフの作品テーマそのもの。女性として病んだ自分と向き合うこと。周りの理解がないわけじゃない、だけど、そんなことでは救われない。自分がどうにかするしかない。同性愛や精神病への偏見もあり、抑圧された時代において、それでも、精神の自由を求めること。ウルフの「この街と死だったらわたしは死を選ぶわ」みたいな台詞があったけれど、究極、やっぱり自分が自由であるかどうかは、自分の心がどこを向いているのかなのだろう。

ウルフの自殺がある種、彼女にとってひとつの救いのように描かれて。でも時代が進んだローラは死ぬんじゃなくて周りを捨てることで生き長らえ。そして更に時代が進んだクラリッサは他人の死を背負う。ちょっとずつ女性の人生の責任が重くなるような構成で、美しいなと思った。時代は進み、女性の立場は自立していくのだが、それでも抑圧はどの時代でも存在する。そのたびウルフのような作家の存在意義があるのだと。

 

個人的にはローラの話が一番好き。たとえ自分が逃げることによって息子を精神的に追い詰めるくらい傷つけたとしても、それはそれで、息子の課題は息子の課題だよって思う。

妊娠しているローラがひとり『ダロウェイ夫人』を読む風景、村上春樹の「眠り」で主人公が『アンナ・カレーニナ』を読む場面を思い出した。

私は村上春樹の作品のなかでたぶんいちばん好きなのが「眠り」なのだけど(あんな小説ほかにないと思う)、描かれているものはほとんど同じだと思う。

女性の抑圧と、どこにも行けなさ、わずかな時間で求める精神的自由。読書は、家庭に閉じ込められた女性にとって精神的自由の場になり得るんだなと改めて思った。