東京物語

三宅香帆のブログです。日々の感想やレビューなど。感想は基本的にネタバレ含むのでご注意を。

イギリスという課題ー『ブロークン・ブリテンに聞け Listen to Broken Britain』(ブレイディみかこ)

主に2018〜2020年のイギリスの社会問題について、イギリス在住の著者の視点から語られてるエッセイ。『ぼくはイエロー〜』が面白かったので読んだ。これもよかった、ブレイディみかこさんの文章追いたくなるのわかる。単なるイギリス政治レポートじゃなくて、文化面をかなりピックアップしてくれるところが良いと思う。立場がわかりやすいのも読みやすい一因かな。

格差社会の行く先やキャンセルカルチャーの是非、多様性推進によるイデオロギーの分断。と、いま日本で問題とされてることがほとんどイギリスで先取りされている。『ぼくはイエロー〜』でも同じこと思ったが。緊縮財政による影響なんかも、在住者からするとこんな感じなんかと勉強になった。

あと紹介されていたイギリスの政治批評に溢れたコメディがかなり面白そうだった。見よう。

 

個人的になるほどと思ったのが、労働者階級を「ケアしてしまう階級」という解釈を説明してるとこ。

グレーバーは、労働者階級の人々とは誰か、という基本的定義についても再考を促す。労働者といえば、炭鉱労働者や鉄鋼労働者などのマッチョなイメージが浮かびがちだが、実は労働者階級とは「ケアする階級」のことなのだと彼は言う」(本文より引用)

自分がケアすることがしみついてしまっている。中流階級は自分でケアしないことに慣れているのに。だから労働者階級は(本来は声を上げるべきところで)我慢してしまうし、他人をケアしてしまうのだ、という話があって。なるほどと思った。

最近のケアの倫理ブームとあわせて考えたい。なんか同じ話な気がする。たぶんフェミニズムとかとも。「女性は怒るのが苦手だ」みたいな言説とも同じ話で、ケアする側というのは、よくもわるくも我慢が当たり前のものだと思ってしまうのであり、だから余計に搾取されやすいしそれに気づかない。さらに声を上げると同じ階級からもけむたがられる。それはしみついたケア労働の癖が存在するから。

逃げるは恥だが役に立つ』で、「それは愛情の搾取です!」ってみくりが言った場面に対して、かなり視聴者から賛否どちらもあったという話があったけれど。これもケアの癖をどう捉えるかなんだろうな。ケアがしみついていることを美徳とする価値観(たとえば女性への褒め言葉によくある「気がきく」とかもそうだよね、もちろん気がきくこと自体は悪いことだとは全く思わんが)だと、それは無償で施すことこそが愛であり善なんだけど。でも一方でそれは搾取のきっかけにもなるっていう。

(まあこういうのは、私はマクロとミクロを分けて考えるべき派です……。つまり、マクロの社会全体の話でいうと、家事する人やケア労働に従事する人の対価はもっと上げられてほしいし、その立場が上がらないことに声をあげるべきだと思う。でもミクロの個人単位の話でいうと、無償のケアなしで家族や組織を営むことなんて無理だし、むしろそのバランスをお互いどうとっていくかが家族や会社やその他組織あるいは関係性においては大切なんじゃないか、みたいな)。話がずれてしまった。