東京物語

三宅香帆のブログです。日々の感想やレビューなど。感想は基本的にネタバレ含むのでご注意を。

京大を退院します!

京都を離れて、東京にいくことになった。

 

……これからブログタイトルどうしよう。っていうとなんか他人事みたいなんだけど。

 

 

現在わたくし京都大学の大学院に所属しているのですけれど、この春から、東京で一般企業に就職することになったのですよ。あっ書く仕事は続けるんですけどね!

いやはや。身近な人には大昔に言ったのだけど、ブログにもちゃんと書かなきゃな、書かなきゃな、と思い続けてはや数ヶ月。夏休みの宿題を抱えたままの子どものよーに、「ああ東京行くって書かなきゃな」と。いやべつに報告義務なんてないんだけども。

 

ちなみにはっきり決めたのは秋ごろ。

でもわりとずっと迷っていた。

 

 

私は文学を勉強したくて京大に来て、いろいろあって*1、大学院にまで進んだ。

「京大院生」って肩書きでお仕事ちょこちょこ頂いたり、こんなブログで京都の思い出について書いたり*2、大学の図書館でイベントをさせていただいたり*3、なんつーか……この一年、京大にいて楽しかった。いろんな、学部生の頃には思い描いてもいなかった仕事やご縁ができて。

研究も楽しかった。ブログやツイッターでは研究について触れることは意図的にしなかったけど、ほんとはすごく楽しかったです!

……いや、もうむりむりと思ったことよくあったけど。ゼミ発表準備のために徹夜してそのまま空港行って台湾で学会でた時とか。眠すぎた。根性なしなのですぐ「む、むり」と思ってしまう。むりでもやるけどさ。

この一年で新しい友達や知り合いもできたし! いやー博士後期課程でも友達ってけっこうできるもんですね。研究の話、するのも聞くのも楽しかった。これは純粋に「楽しかった」って言えるぞ。

 

で、まぁ総じて楽しかったわけです、大学院生活。

まあそらそうだよな。一方で文学のこと書いたり話したりして、一方で文学について研究して、「あれっ私これ望む生活手に入れた!?」って感じですわ。楽しくなきゃバチが当たるわ。

 

でもどこかで、「あ、私、もうここを出なきゃ」ってぼんやり思いついていたのも事実だった。

 

 

このあたりの言語化がなかなか難しいのだけど。

 

 

ひとつ唐突な話をする。

私は、人にはそれぞれ、配られたカードがあると思っている。PEANUTSで言われていたアレだ。

 

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「なんであなたは犬なんかでいられるんだろうって思うわ」「だれもが配られたカードで勝負するしかないんだよ……それがどういう意味であれ、ね」

 

もともと配られた、能力とか好みとか環境とか。それらは、実は自分でも認識するのに時間がかかるカードだ。努力込みではじめて効果を発するカードもある。ちなみに今私は25才だけど、ようやくちょっとカードの全貌が見えかかってきた気がする。

 

で。そのカードを使って、いかに自分の大切なひとやもの、大好きなものやひとにーー力を使えるか。

ってのが人生なんじゃないか、と私は思っている。

 

それは仕事とかキャリアとかだけじゃなくて。なんだろう、幼稚園でおままごとをするとき、みんな同い年なのに自然と「お父さん役になる子」「ペット役になる子」「配達のおにいさん役になる子」「何の役だかわからないがとりあえず参加する子」って分かれたじゃないですか。あのイメージ。それぞれ自分がすっと受け入れられる場所があって、それでひとつのおままごとごっこを完成させてる、みたいな。

みんなそれぞれ役目はちがう。なぜならそもそも配られたカードがちがうから。でもその異なる役目やカードはすべて合わせるとひとつの完全体(小宇宙てきな!!)になる。……伝わりますか?

 

自分に何のカードが配られているかは、偶然でしかない。

だけど私はできることなら、そのカードは、最大限、好きなものやひとのためにいちばん力をつかいたい。……ということを、ぼんやり中学生くらいの時によく考えていた。こんなに明確に言語化していたわけじゃないけど。

それは、今も変わってない。や、変わってないというか、むかしより考えが膨らんでいる。

 

たぶん今の私は、もうすこし、自分のカードを試してみたくなったのだ。

 

 

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構内にもう桜が咲いてた。春やなぁ。

 

大学院は居心地がよかった。これ以上あたたかい場所なんて人生で現れないんだろうな~と心から思うくらい「あたたかい」場所だった。

いやまぁ論文がリジェクトされたりゼミで先生にやんわり苦笑いされたり(苦笑いされるのが一番心に来るよね)学会発表できびしいお言葉をいただいたり、おうっとダメージをくらったことはなきにしもあらずですが!?

しかし先生や研究室に恵まれて、のびのびさせてもらえたのが大きかったんだろう。大学が組織としてどうなのかはともかく、私はふだん接する先生方のことを世界で一番尊敬してて、それだけでじゅうぶん、ここにいる理由だった。あったかいし。

 

だけど。ふっと気がつけば、私のこの先の人生、なんとなく「研究者」というカードだけで生きてく気があまりしなくなった。

それでも先生方のことを尊敬してて、文学の研究をするのが楽しくて、大学院があたたかかったから、ここまでいてしまったなぁ。と、今になって思う。

でも私のカードじゃ、いつまでもここにはいれないなぁ。

と、今年度一年かけて分かるようになった。カードの確認完了だ。

 

 

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近所のお寺の桜も咲いてた。みんな桜にスマホ向けてた。私もだ。

 

変な感覚かもしれないけれど、私はずっとどこかでうしろめたかった。「こんなに文学そのものや文学の先生方から私はたくさんのものをもらってるのに、どうしてなにも返せないんだろう」ってことが。

なんというか、「読む」という作業はどこまでもなにかを「もらう」作業で、もちろんお金は払っているけど、なんというかまったく労力に見合うとは思わない。

もらってばかりなのが居心地わるく、文章を書くようになってちょっと「わたす」側になれた気がして、ああようやくこれでもらってばかりじゃなくなる!! とホッとしたのだけど、それでもやっぱり圧倒的にもらってばかりだ。おいおい。循環しねぇ。

でもどれだけ「ちゃんと返したいな~~~~」と願っても、やっぱり自分の力をつけないと、コツコツつけていかないと、私が返せるものなんて何もない。

自分に力がないと、だれにもなんにもできない。

 

 

だから、就職先で力をつけたり、もっと自分の書きたいもの書かせてもらえる場を探したりして*4、ちょっと精進してゆきたいなぁと思う。

どうやら私のカードは、研究よりも本書いたり人と喋ったりするほうが有効みたいだし。いや知らんけど。でもちょっとがんばってみたい。

 

どこまでたくさんのものを返せるのか、あるいはもらったものを他のだれかにパスできるのか。が、私の勝負なんだなあと思う。

 

もらってばかりだったから。今まで読んできた本や話してくれた誰かから、もらったたくさんのものを、ちゃんと返せる、渡せる大人になりたい。

そのために私は私のカードを把握して、どう使ったらいちばん大きなものになるかな、って、考えて、動くのだ。

と今は思う。なんか若くて恥ずかしいけど。

自分だけができることをしたい。

 

……って口ばっかりでもだめだから、きちんと手を動かさなきゃですね。ほら、地獄の引越し作業*5によって出せていない原稿を出すのだ!!@編集者さん、ほんとにすみません!!!

 

 

 

そんなわけで、退職エントリならぬ退院エントリでした。京大では大学院に入ることを「入院」、出ることを「退院」って言うんだけど、これ一般用語なのか? 謎。

しかし退職エントリはよくあるけど、退院エントリってあんまりないよね!? どっかで後輩たちの役に立てば~~ってぜんぜん立ちそうにねえな。ごめん。なんかあったらメールして(私信)。

 

それにしても京都でお世話になった皆々様、ほんとうにありがとうございました! 意外とみなさんこのブログを読んでくださっててまじびっくりします!

そして東京でお会いしたい皆々様、どうぞよろしくお願いします! ブログを読んでる方はひとことお願いします!(心構えのために!)。

 

っていうか東京に行った自分、がんばれよ~~~さぼるなよ!!!

 

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鴨川は夕焼けがいちばんすき!

 

 

*1:学部の時もM2の時も就職しかけてたんだよ! でもそのたびに鴨川のカモがネギ背負って「きょ~とのみ~ずはあ~まいぞ~」って歌って引き止めてきたので、進学を選ばざるをえなかったんです! 嘘だけど!

*2:実をいうと、このブログの一記事目を書いたあと、編集者さんから連絡がきて「もっと京大のこと書いていきましょ」と言われたのだった。結局なんだか恥ずかしくて、あんまり京大あるあるみたいな話は書けなかった。やっぱりいま自分がリアルタイムに所属していると書きづらい。卒業したら書けるかなあ。

*3:とっても楽しかった、京大生協の本屋さんにも図書館にも本当に本当にお世話になった。ありがたい。まぁ今日ご挨拶に伺ったら図書館員さんにツイッター読まれていることが発覚して焦りましたが(あ、ありがとうございます)。

*4:副業おっけーなとこなので、これを読んでいる出版社およびWEBおよび諸々の方々、お仕事ください!笑。すみません宣伝でした!!

*5:本の梱包作業が大変すぎてしぬかと思った。なんで本ってあんなに重いのか。ちなみにうちの先生は引越しの際、ダンボール二百箱を引越し業者さんに運ばせたらしい。おそろし。