夏の下鴨神社はとにかく最高、すきすきだいすきちょうあいしてる

……ってのは舞城王太郎先生リスペクトな題名をつけたかっただけなのですが。すみません。*1 しかしちょうあいしてるかどうかはともかく、京都の観光地のなかで一番思い出深い場所、と聞かれたらなんだかんだ「下鴨神社かな……」と答える気がする。ちなみに一番好きな場所って聞かれたらまたほかにあるのだけど、それはまた別の時に。

下鴨神社に行くと思い出が多すぎてぜんぶの記憶がとろとろ溶けていってしまうので、「あれこれ何回生の時の記憶だっけな」と時間の位相がよく分からなくなる。題して下鴨神社の思い出、真夏のアイスクリームのごとし。とろとろっつーよりどろっどろに記憶が溶けている。たぶんそれは下鴨神社に行く機会が、京都の暑い暑い夏に多かったことにも所以するのだろう。

下鴨神社になんでこんなに思い出が多いのかといえば、大学からすぐ近くにあるのもあるし、下鴨神社は気軽にいけるイベントが多い、あと拝観料がかからない。最高。

京都に来る前は下鴨神社といえば『有頂天家族』のイメージしかなかったのだが、たぬきは結局いまだに一度も見たことがない。私たちの前に姿を現さないだけだろうか? それとも私が人間とたぬきが化けた人間を見分けられないだけなのか。

 

私は大学でふたつサークルに入っていて、ひとつが「京都の寺社仏閣を観光するだけ」という意識低いどころの話ではないのほほんとしたサークルだった。のほほんとしてるというか、例えば活動日にみんなで寺社仏閣に向かい、そして境内に入る前に「はいじゃあ十六時にもう一度ここ集合で~」と解散する(つまりはサークルで行くのに個人で各々観光する)、個人行動ラブもいいとこな団体だった。ふつうサークルで観光ってなったら皆でぞろぞろ行くもんだろう。*2上回生ともなれば「え、今日銀閣寺? 前に行ったしもういいや、それより哲学の道にあるカフェ行こうよ~」と、 観光せずに集合時間までカフェでだらだら喋る体たらくである。どゆこっちゃねん。しかしそんなマイペース・サークルに入るくらいなのでやたら変な先輩が多くて楽しかったなぁ……って過去形にするほど昔の話でもないのだが。これ美研の人読んでんのかな。

そんなサークル活動でいくつかある「リア充っぽい」イベントのひとつに、六月頃、「下鴨神社にいって蛍を見る」というものがあった。下鴨神社といえば「大量の蛍を川に放流する」時期があって、下鴨神社の境内の川に蛍があふれるほどにいる時期があるのだ。*3

蛍をちゃんと見る機会なんてたしかにそんなに多くなくて、案外「見よう」と思わなければ見えないものである。しかし京都の大学生はそれこそ銀閣寺近くの川辺やら下鴨神社やら、蛍を「見よう」と思ったらわりとすぐに見ることができる。

だけど実際によし蛍を見るぞと思って見てしまえば、結局「蛍だなぁ……」としか頭に浮かんでこない。枕草子もびっくり村上春樹*4もびっくりな情緒もカスもない「わー蛍だー」的な感想しか口から出てこない。ごめんな清少納言。今思い出してみても蛍の風景より蛍見ながら友達と喋ったことのほうがずっと記憶に残っている。ごめんな蛍。

けど、私は年に一度あるサークルの下鴨神社で蛍を見る会がわりと好きだった。それは蛍のおかげというわけではなく、ひとえに下鴨神社という場所のおかげである気がする。夜の下鴨神社というのは、入口から境内がずっと遠くて、糺の森に囲まれた暗い道を通ってゆく。一回生の時にはじめて行った夜の下鴨神社は、妙に雰囲気があって、「おお、私は京都に来たんだな」とちょっと感動した。

下鴨神社には、そういう、「いかにも京都じゃないけどやっぱりなんかこれが京都」みたいな雰囲気が、あって、好き。

 

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糺の森。夜とかけっこう雰囲気ある。ちなみに後ろ姿はサークルの同回生。後ろ姿だけどこんなとこに登場させてごめん! 事後報告!

 

 

七月になれば下鴨神社では「御手洗(みたらし)祭り」がある。あーこのお祭りほんとに京都で一番好きなんだよな。祇園祭よりもみんな御手洗祭りに来てくれ、と京都七年目の人間は思う。*5

御手洗祭りというのは、神社の境内にある池に足を膝まで浸しながら、みんなでろうそくを献灯する、というけったいなシチュエーションを楽しむことができる。七月といえど水はだいぶひんやりとしていて、まるで水飴の中を歩いているみたいな、変な気分になる。みんなで水の中を歩くというのはどうも幻想的というか異界じみてるというか、それこそたぬきが化けてたり妖怪のひとりやふたりいてもおかしくないような、そんなちょっと不思議な雰囲気がある。なんつーかな、千と千尋とかあんな感じ。いろんなものが混ざり合う感じ、山口昌男の本に出てきそうな感じ。楽しい。


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全体的に見にくくてすみません……。膝の下くらいまで浸ってるのが分かるでしょうか。毎年、着物デートしにいらしたお嬢さんたちがちょっと困ってるのもご愛嬌。



ちなみに下鴨神社には、源氏物語の歌が載ってるおみくじがあって、お祭りのついでに友達と引くと楽しい。私の友人は彼女とあれこれあって別れたばかりの時にそのおみくじを引き、見事六条御息所*6の歌を引き当てていた。友人はその歌を国文専修の私に見せて「なぁ三宅これどういう意味?」と聞いてきたが、「奥さんを呪い殺したメンヘラ美女の歌でさ……」とは言えず、なんと説明したものかと困り果てた。まぁそのまま説明しましたけれども。

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私のおみくじの写真が残っていた。おみくじの男性用は女性登場人物の歌、女性用は男性登場人物の歌が記載されている。

 

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それから八月になれば、どう考えても古本まつりでしょ。下鴨神社では毎年「下鴨神社納涼古本まつり」を開催してるのだけど、いやもうこれが暑い。本当に暑い。考えただけで汗が出そうなくらい暑い。なんせ八月の京都の野外である。『夜は短し歩けよ乙女』に先輩が乙女を追っかけ回した舞台として、この下鴨神社の古本まつりが出てくるのだが、「こんなに暑い中で欲しい本もないのに追い掛け回すなんて、本当に先輩は暇だったのだな……」と私ははじめて古本まつりへ行った時に思った。京都の夏は蒸し風呂もいいとこ、というかサウナに暖房扇風機かけてオーブントースターでじりじり焦がしました、みたいな「湿度も温度も高いってどういうこっちゃねん」とツッコミを入れたい暑さなのである。しかしそれに加えて神社。蚊が多い。もう一度言う。蚊が多い。大事なことだから太字にしてしまった。まぁ蚊が多いわ日射しは強いわ蒸されるわで三重苦どころの話ではないのだが、そこは古本まつり、やっぱり安くなってるいつもは手が出ないあれこれの本を手に入れるべく奔走しないわけにはいかない。海賊王になりたいワンピースよろしく本の山からじりじりとお宝を探すのである。しかもけっこういい本が売ってあったりして、やっぱりこの世は宝島。うん。これドラゴンボールか。まぁこういうふうにいい本が見つかるから、結局次の年も「暑い……」とげんなりしつつ行っちゃうのだよ。

 



去年の夏、いろいろとしんどいことが重なって心底疲れ果てていた時、夜ぶらぶら散歩をしていて、ふと下鴨神社に向かったことがある。ひとりで用もないのに下鴨神社に行ったのははじめてだったのだけど、夜の下鴨神社というのはやっぱり妙に暗くて静かで、ひとりでぼんやり歩くにはなかなかどうしてよき場所だった。夜だったから拝殿のとこには入れず、とりあえず引き返してきたのだけど、それまでぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるしていた思考が、下鴨神社を歩いてるうちに、すとんと「まぁ、周りに感謝してがんばろう」という至極まっとうな結論に至ったのをよく覚えている。そしてなんとなくその時、私は下鴨神社という場所のことを信頼したのである。

信頼というのは普通は人に使う言葉であると思うのだけど、たまに「場所」に対しても私は信頼できるなと思う時がある。うまく言えないのだけど、この場所があればなんか大丈夫な気がする、みたいな場所のこと。もしかしたらたくさんの人に信頼される場所のことを人は「聖地」とか「神社」とかそういうふうに名付けるのかもしれない。

昔読んだ本で、エリアーデという人が「聖なる場所」ってのはこの世にあるし、それは「いろんなものが帰ってきて旅立ってく場所なのだ」みたいなことを言っていた。些か宗教的な話すぎて寺社仏閣だって友達と喋るために使うくらい俗的な人間にはちょっとよく意味がわからない、と思ったけれど、下鴨神社のことをそう呼ぶなら、なんとなく、わからないでもない。下鴨神社の思い出は線上にあるのじゃなくて、ぜんぶ混ざってしまう。みたいな話。うまく言えないけど。

 

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ともかく、夏の下鴨神社が私は好きである。蚊は多いし暑いけど、歩いてて楽しい場所。京都の観光地だと案外見過ごされがちなんだけど、私は好きなんですよ、ぜひ京都にいらした際はお立ち寄りください、という話でした。

 

今年ももうすこしすれば、夏がやってくるなぁ。今年の夏も、生きのびましょう。

 

 

 

*1:好き好き大好き超愛してる。』(舞城王太郎講談社)、名作なのでみんな読んでくれ

*2:新歓で「あっこれそんなにリア充する感じのサークルじゃないや」と気づいた新入生はここらへんでリア充観光できる別の観光サークルに行く、という春の風物詩。しかし非リアと非リアが集まるとそこはリア充になるという法則のごとく、意外とサークル内恋愛は多かった。完全に余談だけど。

*3:蛍の茶会なんてものもある。茶会には行ったことないけれど。ほんとに放流された蛍はきれいです。もしこの時期に京都いらっしゃる際はぜひ。

kyototravel.info

*4:『蛍』という短編がある。あんまり知られてないけど、有名な『ノルウェイの森』の元ネタになった短編小説である。

*5:御手洗祭りの詳細はこちら。

*6:源氏物語に出てくる有名なメンヘラ美女。生霊で光源氏の奥さんを死なせるという稀有な念力を持った女。すごい。