東京物語

三宅香帆のブログです。日々の感想やレビューなど。感想は基本的にネタバレ含むのでご注意を。

柏木由紀さんのメイク動画のおかげで、健康になった2020年

2020年は、健康になった年だった。だれのおかげでもなく、ゆきりん――AKB48柏木由紀さんのおかげである。

 

ゆきりんと健康。といっても、これは「推しのおかげで元気になりました!」みたいな話ではない。ちょっとまどろっこしいけれど、経緯を説明しよう。2020年の終わり、誰に感謝を述べたいかって思いつくのはまず私はゆきりんだ。ミルクボーイ風に言えば元旦に誰の健康を願うかと言えばまずゆきりんなのである。

普段、私は本を読みものを書くことを生き甲斐としている人間である。多くの読書好きがそうであるように、万年肩こり・腰痛・おまけに目の使い過ぎによる頭痛を患っていた。読書好きへの偏見を晒しましたが。ていうかそもそも本は関係なくとも貧血気味で冷え性なので、けっこうそれだけで不健康みたいなところはあった。

しかしまあ、肩こりは小学生以来の付き合いだし、貧血でばたーんと倒れるみたいなことは中学生のころからあったし。10代のうちから「この先、体が100%健康です! という状態を迎えることは一生ないだろう」と悟っていた。

ところがどっこい。2020年はやってくる。

まだ新型ウイルスの噂が「なんか中国で流行ってるらしい」くらいのテンションだった冬頃。私は人生で何度目かの「貧血でばたーん」をやらかした。しかも今回は電車の中。一緒に電車に乗っていた仕事相手の編集者さんは、目を丸くし、焦っていた。当たり前である。私にとっては人生で何度目かの貧血であっても、相手にとっては、電車のなかで突然ぶっ倒れた人である。あかん。しかもさっきまで楽しくお酒を飲んでいた仲なのに。

さらにその晩、タイミング悪く、ほうっておいた虫歯がずきずき痛み出した。人前で倒れた罪悪感はあるわ、歯は痛いわ、仕事で忙しくて寝れていないから疲れてるわで、もう、なんか、「だめだこれは!!!!!!!!」と万年不健康児の私はベッドの中で叫んだ。

だめだこれは。このままでは生きてゆけない。

まだ26なのに、こんなに疲れていては、この先、ぜんぜん生きていけない……。これからもっと体は老いてゆくのに。今が一番若いのに。だめだ。なんとかして健康にならないと。

 

ここで一念発起して健康のための対策を始めました! という話になればいいんだけど、人生は忙しい。なかなかやってくる日常にかまけていると、「あ~~~どうにかしなきゃな~~~」と頭の片隅で思いつつ、なんもできない、という日々が続いた。会社の仕事も書き仕事も山積みだったのだ。

しかしあなたも私もご存知の通り。春ごろ、STAY HOMEの波がやってくる。

会社もありがたいことに在宅勤務にさせてもらえたし、副業のほうで予定されていたイベント系の仕事が一気にキャンセルになり。ちょっと忙しかった仕事が落ち着いたタイミングだった。余裕が出てきた私の目に飛び込んできたのは、柏木由紀さんのメイク動画だったのだ。

 

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いや、端的に言ってものすごい。

何がものすごいって、自分の直したいところ——つまりは自分のマイナスを直視し、それをメイクという技術によって、自分の納得いくかたちでなくしているところである。

ものすごくないか。こんなこと可能なのか。アイドルはしばしばそのメイク技術が高いことが女の子の羨望の理由になるけれど(とくに大人数のアイドルは、自分たちでメイクしてテレビに出ることが多いらしい)。それにしたってゆきりんはものすごくないだろうか。たしかにメイクする前と後で印象が全然違う。もちろんビフォーもめちゃくちゃ可愛いけど、でもアフターはたしかに変わる。技術だ。

私は思った。「自分のマイナスだと思っているところって、こうやって、なくすことができるのか……」と。

 

伝わるかどうかわからないのだけど、私にとってメイクは「プラスを増やす」ものであり、「マイナスをなくす」ものではないと思っていたのだ。

たとえば瞼にラメをのせてテンションを上げる、とか、唇に自分のパーソナルカラーに合った色をのせることで血色感が生まれる、とか、頬にハイライトをのせることで艶を足せる、とか。そういう、美しさや楽しさを加点する、1を100に近づける作業だと思っていた。

でもゆきりんのメイクは、「マイナスをなくしていく」作業だ。自分にとってここはマイナスだと感じる箇所を、丁寧に、修正して解消してゆく。もちろんそんなの一般人からしたらマイナスのうちに入らないし、かわいいと思う箇所だけれど。ゆきりんは繰り返し、ここは自分にとってのマイナスだから直したいだけなのだ、と言う。

 

 カワイイは作れる。という言葉の内訳に、(自分にとって)カワイくないところを、なくせる! という意味があったことを、はじめて知った。

 

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ひ~~~~~。かわいい~~~~~。すごい~~~~~~~。かわいい~~~~~~。ものすごい~~~~~~~~。

youtubeで次々と繰り広げられるゆきりんのメイク技術を眺めながら、私は人生ではじめて私は思った。「自分も、自分にとってのマイナスって、なくせるのかな……」と。

自分にとっての、今一番のマイナス。それはまぎれもなく、10歳くらい——というか物心ついたときから付き合っている、肩こりであり、貧血であり、不健康だった。

 

正直、体の健康なんて、25歳まではどうでもよかった。人生なんて、本を読めたらそれでよかった。体なんてじゃまだなあ、頭だけ動かせたらいいのになあ、と本気で思っていた。だから健康のために費やす時間が、もったいない、と感じて時間とお金を費やせなかった。健康なんていらなかった。

でも一方で、人生は長い。ふつうに生きているだけで電車で倒れてしまう。ふつうに本を読んでたら肩こりで病みそーになってしまう。ふつうに生きてるだけでマイナスは向こうからやってくる。だからこそ、人生にプラスを与えるためというよりは、「マイナスをなくすため」に、健康に時間を費やすようになったのだ。

不健康はマイナスだと、気づいてしまってはしょうがない。私は調べた。そんでいろいろ試した。

 

結果として、とりあえず私は今とても健康である。

正直、在宅勤務になって通勤電車の時間がなくなったり出社によるストレスが減ったのも大きいけど。でも毎日ひきこもってるにもかかわらず、肩こりもものすごくましになった。朝起きたときにくらっと眩暈がするみたいなこともなくなり、なにより起きている時間の「なんか体が重い」感じが格段に減った。ついでにダイエットも功を奏し痩せた。やったね。

ゆきりんのおかげで、「自分のマイナスをなくすぞ」と思えたおかげで、リングフィットで運動するようになった。人生で初めて自主的に運動したいと思って、youtubeの筋トレ動画や、コロナが落ち着いた時にちょっとジムに行ったりもしたのだけど、結局家で人(リングフィット)に指示してもらえる運動がいちばんだと気づいた。リングフィットは運動苦手な人におすすめです。フォームローラーや頭のマッサージ器も肩こり解消に良かった。

あとは貧血の人は結局たんぱく質がたりないのだみたいな話を読んで、できるだけ肉や豆腐を食べるようにしたり。私はほっておくと甘いものをごはん代わりにする人間なのである……。

メイクやスキンケアもちょっと変えてみて、自分に合ったものを探して、それも楽しかった。自分は調べることがそもそも好きな人間なんだと気づいた。調べて試して仮説を検証する、みたいな試行錯誤がそもそも好きなのだから、それを頭の中だけじゃなくて、自分の体で実験してみればいいのだと気づけた。

 

 

ずっと、人生は配られたカードで勝負するしかないから、得意分野を使う場所を、いかに増やせるかがいちばん大切だと思っていた。そして好きなものでテンションを上げて、人生が嫌にならないことが大切なんだ、と。

でも一方で、配られていないカードもまた、自分の手で補ってゆくことができるのかもしれない、と今年はじめて思った。マイナスをゼロにすることは難しくても、マイナスが気にならない程度になることは、ある。

マイナスをなくすことがこんなに快適だとは知らなかった。マイナスがなくなれば、もっとプラスを伸ばそうとも思える。素直に来年は自分の得意分野も頑張りたいと思えている。あんなに疲れていた一年前から考えると、ものすごい変化だ。

ありがとうゆきりん。再生回数くらいしか今はお返しができないけど、コロナが落ち着いたら、握手会の券を買って直接お礼を伝えたいです。

 

 

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