東京物語

三宅香帆のブログです。日々の感想やレビューなど。感想は基本的にネタバレ含むのでご注意を。

全人類に薦めたい漫画ー『ゴールデンカムイ』(野田サトル)

こんな面白い物語を素通りしてた自分が!!!! こわい!!!! と心底思った。ゴールデンカムイ。最新話まで読んだのだが傑作だった。

いやしかし面白いまんがですよね。私、物語って「傑作だし老若男女全員にすすめたい」「傑作だけど老若男女全員にすすめたいわけではない」「傑作ではないし誰にもすすめない」の3つに分けられると思ってて。当然、前者が数としては一番少ないんですが。(小説でも漫画でもかなり少ない、今までそう思ったのは、米原万里さんの『モリガ・オリゾウナの反語法』とか、山岸凉子さんの『日出る処の天子』とかかな……今気づいたけどやっぱり歴史が絡んでると薦めやすいのかな)。ゴールデンカムイは、前者。マジ前者。誰にでもすすめたい。みんな読んでほしい。たぶん誰が読んで面白いと思えるタイプの漫画。9月中旬までヤンジャンアプリで無料公開中なのでみんな読んで。

北海道版『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』って感じの話。ゴールデンカムイアイヌ文化の話であることはすでに有名だと思うんだけど、今回じっくり読んでみて、「明治の北海道」を舞台にする点が天才だと思った。北海道って広いし都会も田舎もあるから、冒険旅モノの舞台として最適なんだよな。ひとつの島なところもいい。そして明治の北海道を描くならば、アイヌはそこにどうしても絡んでくるポジションだ。

あらすじは、日露戦争の生き残りである元軍人の杉元は、北海道でとある一攫千金の噂を聞く。北海道の囚人たちの背中に、砂金の山のありかが彫られている(!)という。暗号になっているので、囚人たち全員の背中の模様を集めなければならない。そんな噂を聞いた折、杉元はアイヌの少女アシリパと出会う……ってとこから始まる話。

このアシリパちゃんの家をはじめとして、漫画のなかでアイヌの食文化や風俗を知ることができるのはかなり楽しい。私もチチタプ言いながら料理したい。

 

フォーマットとしては元祖ジャンプの冒険旅モノ(それこそ私も最近読んでたハンターハンターやワンピース的な)。でもそこに舞台として「北海道」と「アイヌ文化」が絡む。『愛の不時着』なんかもそうだけど(あれもフォーマットは元祖韓ドララブコメ、でもそこに北朝鮮の風俗を絡ませるから面白くなるっていう)、ベタなフォーマット×あまり題材になってない切り口の文化、って組み合わせいいよねえ。冒険物語としても面白いし、明治の北海道の名所巡りにもなって、さらにアイヌ文化を知ることができる、という。

時代が明治なところもいい。幕末明治の話は数あれど、「北海道を舞台にアイヌの話やりましょう」って考えついて作品にした作者さんと編集者さんは天才だと思う。

やっぱり、明治って時代がそもそも面白いんですよ。国力があるから、諸外国との関わりもやれてる。だけど、国内ではみんな幕末や明治初期の混乱を引きずっている。近代日本ができていく過程にあるから、外国との関わり方も含めて、みんななにかを始める余地がある。始めるエネルギーもある。やっぱり創業期は物語が生まれやすい。

そのなかで「日露戦争後、いまだ日本の支配が弱い北海道、そしてロシアのものとなった樺太という土地は、もしかしたらアイヌ文化を中心に別の国が生まれていたのでは?」って話は、本当にあり得た歴史のifだ。近代日本史では無視されがちなそのあたりの話について、ファンタジー含め、北海道をフロンティアとして描く。……っていうの、映画や小説見渡してみても、意外とやってなかったよね?(すでに書いてた人はいるかもだがこんなに有名になった作品はない……よね? あったら教えてください。榎本孝明が建国みたいな話はありそうだな)。

アイヌ文化ってのは、よく言われるけどこの同調圧力空気絶対な単民族国家と思われやすい日本において、稀少な「異文化」だったわけで。この多様性の許容が語られやすい時代において、「日本の歴史でも、多民族国家が生まれる可能性があったのでは?」って話を展開するの、かなりすごいことだと思う。よく思いついたよなあ。いやむしろ今の時代だからこそ描かれたのかな。

幕末明治という時代も、中央視点の話だけにならず、こういう物語が登場してくれるのはすごい素敵なことだ。しかもがっっつり少年漫画として。物語、そして時代の豊かさを感じる。

もちろんアイヌって話題が、歴史から考えて、日本人側から触れづらいものであることは百も承知なんだけど。でもそこを超えて、こうしてすごい漫画になってるって、すばらしいことだよねえ……。アイヌ研究者の監修の先生のインタビューも好きです。

まあそういうテーマ性みたいなごたくはおいておいても、漫画として面白いんだよー! 砂金のありかとなる舞台がアレ(ネタバレ)だと分かった時の! 鳥肌! あと土方さんが出てきてくれるのとか、新選組ファンは嬉しい。軍人モノにありがちな裏切りと戦略の掛け合いもかなり楽しい。

ちょいちょい絵画や映画のオマージュも入れているらしく、それもすごい。ユダのやつとか。私はあんまり気づかなくて、漫画アプリのコメント欄でみんなの意見みて知った……。ありがとうヤンジャンアプリのコメント欄。みんな伏線やパロディにすぐ気づいててすごいよ。

 

そしてなんといってもキャラがいいんだよお。私は正直前半1/3くらいは、アイヌの話読めるのは楽しいなー、くらいに思ってたんですが。(だから前ちらっと読んだ時もそこで止まっていた)。主要キャラが出揃ってからの面白さが全然違う。

とくにこの作者さん、主要キャラの過去の話をめちゃめちゃ入れてくれる。それがしかも絶妙にキャラへの愛着を増すエピソードばかりで、そこが好き。

ちなみに私がいちばん好きなのは杉元です……安易に杉元派になりました……ああいう、育ちが悪くて野生の勘で生きてるのに品があるキャラが、ええ、好きなのよ……。(どうでもいいですが同系統として、ジャック(@タイタニック)も、ディミトリ(@アナスタシア)も私は大好きです)。

あと尾形!!!! 尾形おまえ!!!! けっこう尾形ファンの私は、どんどん物語が進んだくにつれて尾形の拗らせ方が気になってしょうがありませんでした……。20歳超えたら親のトラウマは人にあたらず自分でカウンセリング行って解決しよう……。嘘です。

アシリパと杉元の関係も好き。ちょっと『あまちゃん』のミズタクとアキの相思相愛バージョンぽくないですか。(これ、私的にすごい納得した解釈だと思ってTwitterで書いたら、いいね3しかつかなくてへこんだ。みんなそう思わん!?)。恋愛関係になってほしいようなほしくないような。いやでもここまで来たらくっついてほしい。文化の違いを乗り越えて。

 

あと絵もすっごく上手いと思う。どこかで「動物の絵が上手い人は本当に絵が上手い」みたいな発言を最近読んだのですが、まさにそれ。動物、本当に上手くないですか。

私はもともとホッキョクグマが好きなのですが、出てきたホッキョクグマまあまあ怖くてびびった。でも可愛かった。

 

いやはや、読めて嬉しい漫画だった。これから毎週の楽しみができた。すでに最終章というのは寂しいけれど。単行本も買いたいなあ。無料公開に感謝です、ありがとう集英社さん……。

 

 

Twitterで見かけて知った、作者さんのブログも良かった。この記事も。あわせてぜひ。

https://723000451898910026.weebly.com/125021252512464/archives/09-2014