鴨川を語る詩人になれなくて

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桜の季節である。完全に今年は早かった。いつもなら入学式の段階で「わ~京都の桜きれい~♡満開だ~♡」なんて言う初々しい新入生に「ところでうちのサークルのお花見がこの週末にあるんだけど来ない?」と下手なナンパかよとつっこみたいサークルの新歓が行われるところであるのに*1、今年は卒業式の段階で咲ききってしまった。どうすんだろう彼ら。がんばれ。

そんなわけで桜といえば鴨川である。京都では鴨川といえばトンビ*2、そして桜といえば鴨川なのである。循環論法みたいだな。

鴨川といえばその昔、鴨長明せんせーも眺めながら「ちょう無常!」と言ったとか言ってないとか*3柿本人麻呂も「鴨川で会いたい♡」と言ったとか言ってないとか*4、鴨川を前にするとみんな何かしら言いたくなる。そう、鴨川を前にすると、みんなしてポエマーになるのである。

ポエマーになる。

びびる。

 

 

これは個人的統計に基づく情報なのだが、京大生は異様なまでに鴨川での告白が好きだ。なぜってくらいみんな鴨川で告白する。私の京大女子会ライフの中で「告られた~」「おお、ついに」「いやー鴨川行ったらなんかそういう雰囲気になって」「あ、ああ~~KAMOGAWA……」みたいな会話を何度したことか。おそろしい。何があるんだ鴨川。『月刊マーガレット』に頻繁に登場する渡り廊下よろしく、京大の女子会に頻繁に登場する鴨川。

何なんだ鴨川。きみは何を隠しているんだ。きみは何を京大男子に飲み込ませているんだ。

 

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私は覚えている。ゼミの最中、「二十歳になるのが嫌だった」というトピックを扱った時(文学研究のゼミってこんな話を授業中にするんですよ……)、ある男の子が「二十歳になるのが嫌すぎて、深夜の鴨川のほとりを猛ダッシュして泣いた」というエピソードを披露したことを。

ちなみにこないだは卒業式だったのだけど、東京へ引っ越す友達の数人が「タクシーで鴨川を渡るとき泣いた」「最後に鴨川を自転車で漕いだ時泣いた」「最後の桜を鴨川で見て泣いた」という発言を残して去っていった。彼らが最後に残したダイイングメッセージにやたらめったら「泣ける場所」として登場する鴨川。

そしてむかしNHKで「ドキュメント72時間」という番組があり、「鴨川をひたすら72時間うつすだけ」という狂気の沙汰かよという回があったのだが、東京でその番組を見た私の友達はみんな言っていた。「泣いた」と。

 

鴨川、どいつもこいつも泣かせすぎ問題。

 

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鴨川なんて、ただの川だ。

だけどなんでみんなそんなに揃いも揃って鴨川が好きかといえば、「お金のかからない遊び場所」だから好きなだけなのだ。鴨川の思い出を聞かれても、きっとその告白の記憶とかみんなでデルタで飲んだ記憶とか花火した記憶とかお花見で誰かが川に飛び込んだとかお花見じゃないのに誰かが飛び込んだとか、結局友達とだらだらしたり喋ったり飲んだり、そういう記憶しか思い出せない。

そう、鴨川はただの川だけど、重要なのはそこで過ごす時間がタダであり、大抵鴨川に行くなんていう時は暇なときであること

 

「時間を気にせずいられる、お金のかからない遊び場所」がどんなに貴重だったのかを、私たちは意外と、知らない。

 

京都を卒業してゆけば、「お金をかけずにだらだらと過ごせる場所」は存外に減ってゆく。宅飲みだって結婚したり会社の寮に住んだりすればできなくなる、居酒屋もカフェもキャンプ場も、思っていたより有料だ。

その時私たちははじめて知る。「外でだらだらする」ことが、思いのほかむずかしいことを。

そして思い至る。「外でだらだらする」ことのできる友人という存在が、思いのほか貴重であることを。

 

夏は蚊がいて、春と秋はちょっと肌寒くて、冬はかなり寒くて、年中無休でトイレがコンビニにしかなくても、それでも「なんとなく朝まで一緒にいちゃう」相手は、案外いない。

無駄な時間の共有。退屈で「もう帰ろうかな……でももはや帰るのもめんどいな……」くらいに思う友人との会話。明日になればほとんど覚えていない内容。それは今私たちが思っているより、けっこう、手にすることが難しいものである気がする。効率的じゃないし、ね。*5*6*7

 

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ある時ジョイスの『ダブリナーズ』を読んでいたゼミで、教授は授業の最後に、ふと思い出したように言った。「きみたち、鴨川で朝まで飲んで、朝日を見るとかするでしょう」

そして、教授はにこっと微笑んだ。

「それね、今だけだよ」

 

 

今だけなのだろうか。私たちは、鴨川で朝まで飲まなくなった時、鴨川を語ることができるのだろうか。

 

 

鴨川は遠くにありて思うもの。ってわけじゃないけど(実際、鴨川で泣いてる現役京大生はたくさんいるらしい)、でも、まぁ、今のところ私は鴨川を見てもべつに泣かない。京都にいる身としては、鴨川は基本的に楽しい遊び場である。鴨川を語る資格のあるやつは、鴨川を卒業できたやつだけだ。

 

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京都を離れないと、まだ、鴨川を語る詩人になんて、なれない。

 

 

*1:ちなみに京大のサークル男子たちが新歓時期に最も楽しみにしているのは京都女子大に新歓しに行くとこであり、京大生がハツラツとしているところを見ることが出来るのは一年でその日だけと言っても過言ではない。しかし京都女子大の構内には入れてもらえず警備員さんに虫ケラを見るような目をされるとかされないとか。

*2:鴨川でひとりでパン食べてたらまじでとんびに食べられるから注意してくださいほんと。ちなみに私もとんびに持っていたパンを今出川通りでかっさらわれたことがある。やつらはプロ。

*3:言ってませんごめんなさい。

*4:言ってませんごめんなさい。でも「鴨川の後瀬静けく後も逢はむ妹には我は今ならずとも」(万葉集巻11・2431・人麻呂歌集)って歌はあるよ

*5:そういう意味でシェアハウスとか大学時代の友人関係に近そうで、だから流行ってんのかなとも思う

*6:二、三枚目は友人が撮った写真です。すっごい上手で惚れ惚れするわ。M枝、使わせてくれてありがとう!

*7:はいこの記事で一番言いたいことですが、このタイトルに反応したあなた、SKEオタクですね!?「恋を語る詩人になれなくて」、聞いたことない人は聞いてね! いい曲だよ!

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